アトリエ　訪問

伊藤七男（いとうななお）さん

☆伊藤七男さんの…

これまで：
絵の道に進むきっかけは、彦根市立城東小学校高学年の時に滋賀大附属中学の先生が開いていた絵画教室に通い始めたことかな。それまで、あまり絵は意識していなかったけれど、一所懸命に描いた作品が展覧会で評価されたことも誘因になったかもしれない。て言うか、人ってタイミングで進む道を知ることがある。今にしてみれば、それだったんじゃないかと思う。
でも、中学校では陸上部に入り毎日走っていたけれど、将来を考えたら、陸上で生きていくのは無理だからと諦め、同様に難しいとは分かっていたけれど、高校進学時に絵の道を選択、自分の将来を決めるのはかなり早かった。高校に入学して美術部に入ったけれど、それだけではダメだと考え、山尾平さん（画家・元滋賀大名誉教授）のやっていた私塾に入った結果、絵では怖いものなしだった自分の意識が、現実の世界を知って学び、大きく変化、そのお陰で東京芸大に入れたと今も感謝している。
2浪して入った東京芸大では、現在も102歳で元気に油絵を描いている野見山曉治先生との出会いもあり、充実した学生時代を送ることができた。芸大を出た後は生活のために教育系出版社に入り、恐竜とか植物を精密に描くイラストレーターとして10数年勤務。また、イラストが細かい仕事だったので、気晴らしも兼ねて個人的に木工も始めた。でも、イラストの仕事が斜陽になり、栃木県那須郡にできた新設私立学校の美術教師に転職。その7年後には足利市の短期大学に転じ、そこも2019年に退職。ただ、40年近く仕事をしていた間も作品制作と発表はずっと継続していた。だからこそ学生たちに造形の基礎を教えてこられたと思っている。

コレカラ：
1989年から10年ごとに「和差美（わさび）」という、旧作と新作を交えた作品展を開催してきた。それが仕事を終えた2019年に作品発表歴が40年を迎えたので、日本橋のSPC GALLERYなど、自分と縁のある何ヶ所かで展覧会「40年目の和差美」を開催できたのは良かったし、コロナ禍以前だったのも幸いした。
それで、今はようやく絵描きらしい生活をしている。ここまで比較的うまく歩んで来られたと思うし、もうガツガツしなくてもいいから、楽しく作品制作ができればベストだと思っている。実際、制作している時は、以前にも増して自分の世界に入っているし、時間を気にせず細かいところまで作品に手を入れることができるのはありがたい。
だからと言って不安がないかと言えば、そうではなく、作品発表をどうしていくか、日本で美術をやって行くにはどんな方法があるのか等に加え、現実的な経済のことも考えている。また、作品制作時の「これで良いのか？」の自問は相変わらずだね（笑）。
ただ、最近になって、年齢も関係しているかもしれないけれど、これからは世の中の派手な部分とは一線を画し、自分のしたいことをして生きて行くしかないのだろうと思うようになった。
それで今回発表した作品「雲」は、出不精もあって那須のアトリエから見た普段の風景だけど、凄すぎる自然の様相の変化を、雲を通して表現してみた。とにかく雲は実体がなく、捉えどころがない存在だから面白い。また、額も入れて作品だから、木工も含め、これまで自分がやってきたことが積み重なって表現されていると思う。それを観た方が「心地良い」と言ってくれるから、その作品を手ごろな価格で、多くの方に手にしてもらうことが、今の私の願望かな。



＊取材協力
ギャラリー ファンタジア佐野
所在地：栃木県佐野市高萩町463-2
TEL/FAX：0283-21-0820

（構成・撮影 関 幸貴 ）