アトリエ 訪問
ご夫婦で「暮らしにアート」をテーマに作品制作を続けている住谷重光さんと美知江さんに、その思いを海の見える大磯のご自宅で語っていただきました。
住谷重光さん 美知江さん
◇住谷ご夫妻とのQ&A
Meets Gallery (以後Q):今日はよろしくお願いします。さて、最初の質問です。いつ頃からおふたりは「暮らしにアート」をテーマにして制作活動をしているのですか?
住谷重光さん(以後S):唐突ですが、江戸時代の日本人って浮世絵の存在を考えても、現代の私たちよりずっとアートに親しんでいたんじゃないかと思います。そうしたことを思い描きながら私たちは約20年前から、多くの方々にアートを気軽に日常生活に取り入れて欲しいと思い制作活動をしています。そして「暮らしにアート」の象徴的なフェアを企画し長年携わってきたのが美知江さんです。
住谷美知江さん(以後M):多くの方々が絵画とか彫刻を特別な存在として捉えています。しかし、そうではなく生活の中に絵画等の作品を置くことでアートの素晴らしさを知ってもらいたいのがコンセプトでした。そのためには作品を身近に観ることに加え、使ってもらいことで良さがわかるんじゃないかと考え、MK企画として約20年前から作品販売をするフェアを小田原のギャラリー新九郎でスタートさせました。
Q:MK企画とは?
M:フェアを企画した私、美知江のMと、その良き相棒であり広報と販売が得意だったギャラリー新九郎の奥様/和子さんのKから名付けました。
Q:フェアの具体的な内容は?
M:アートをより身近に感じてもらいたいので、立派な油絵より親しみがある版画とか、彫刻ではなく日常使いのできる陶芸作品、刺繍や手芸から染めをやっているアーティストさんには暖簾をお願いしたり、女性の衣服まで様々なジャンルの品を集めて価格もリーズナブルに設定、アートと名付けても皆が手に取りやすいものを集め2年に一度、小田原市内の伊勢治書店3階にあったギャラリー新九郎で「zakka 暮らしにアート展」として開催しました。普段はギャラリーに姿を見せない方々がやって来てくれ、売れ行きも良く、ギャラリーがダイナシティに移ってからも続けました。
Q:お客様の反応はいかがでしたか?
M:回を重ねるごとに来場者は増え、かなりの方々がいらしてくれたので毎回手応えを感じました。ご自分のお小遣いの範囲内で作品購入する女性のお客様が多く、大磯の町角で同じイメージの洋服を複数の方が着て立ち話をしている姿を観た時には思わず微笑んでしまいました。ただ、残念なことに相棒のKさんが昨年お亡くなりになったので、フェアに関してはこの辺りで一区切りつけようかなと考えています。でも、私は絵描きなので、そのコンセプトを胸にこれからも制作活動を続けていきます。
Q:重光さんも「zakka 暮らしにアート展」に出品していたのですか?
S:はい、もちろんです。同時に美術館や画廊で観るだけではなく「暮らしにアート」のテーマに沿って三重/志摩観光ホテルベイスィート、湯河原/フレンチレストラン「カランク」、小田原/福井内科小児科クリニックで作品展示をさせていただいています。また、私自身の企画も20年になりますが、大磯のギャラリーさざれ石で「地域の美を地域の人に」をコンセプトに地元の景色を描いて2年に一度個展を開催、好評を博しています。現実的には作品の価格設定を抑えていることもあって前回は40点出展して、32点が売れました。
M:身近で親しみやすい大磯や湘南がテーマなので、お客様は地元のリピーターが多いです。
S:さざれ石で1点購入された方は、どうも継続して買っていただいているようです。そして購入した私の絵を仕舞い込むのではなく、ご自宅に飾ってくれているのが嬉しいです(笑)。
Q:まさに地元大磯での「暮らしにアート」の実践例のようですし、制作者と購入者の距離の近さを感じられるのも素敵です。さて、最後の質問です。おふたりにとって絵を描くことの意味を教えてください。
M:心の拠り所です。かつて会社勤めをしている頃は、忙しくても非日常的な行為である絵を描くことで、仕事のストレスを解消し健康を保っていたと思います。まさに「暮らしにアート」があったことで、無事に退職でき自分の人生を送れてこれたんじゃないかしら。
S:私の場合は、まず絵が好きだって言うこと。描くことは山登りと同じで、自分が行動しないと見えて来ないけれど、むしろ色々なものを捨てて行くことで絵が出来上がるんじゃないかと思っています。あと話が少しずれるかもしれないけれど、描いてから時を経ても画家の心情を内在しているゴッホやセザンヌ、坂本繁二郎らが描いた絵は、過去現在未来に関係なく今も生きている気がします。そうした作品に出会えることも画家としての幸せを感じます。
Q:今日はありがとうございました。
(2024/08/05 取材撮影 関幸貴)
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