アトリエ 訪問


2022年10月上旬、ミーツギャラリーで金大偉さんにお会いし、11月に開催される特別絵画展「桃源郷 Earthly Paradise」のお話を聴かせていただきました。

金大偉(きんたいい)さん

金大偉(きんたいい)さん

☆金大偉さん 特別絵画展「桃源郷 Earthly Paradise」を語る…

まず最初にお伝えしたいのは、私には音楽と映像と絵、三つの表現方法があります。その中で、どれがメインかと言うことはなく、私自身の心情や状況で表現は異なります。加えて、絵で表現できるものは音楽ではできないし、逆もまた然りです。そこから今回は、絵で「桃源郷 Earthly Paradise」を発表させていただきます。また会期中には映像作品の公開もありますので、お楽しみいただければと思います。
さて、よくテーマの「桃源郷」と比較されるのが、「ユートピア」です。「ユートピア」は、イギリスの思想家トマス・モアが1516年に出版した著作に登場する造語で、分かりやすく解釈すると「万人が幸せに生きる理想郷」を意味します。ところが私が捉えている「桃源郷」は、東アジア的で老子の道教の影響を受け、自己主体的な考え「自分の幸せは自分にしか分からない」をベースにした「個人の逃避的な世界」となり、視点を変えると「ユートピア」が崩れた後に飛び込む「逃避的理想郷」とも言え、少し難しい位置付けになるかもしれません。
その「桃源郷」は、今回の特別絵画展のためだけでなく、約20年前から私自身が持ち続けているテーマです。毎年なにかのタイミングで描いていますが、11月には10数年前の作品から最新作まで展示することになります。また、実在する対象ではないので、自分の中の理想郷、幻覚ではないけれど、見えそうで見えない世界のイメージを絵にしてみました。
内容的には「陰陽」を強く意識しています。と言うのも、常に私の表現には陰と陽のイメージがあり、その世界観を出したいと強く思っているからです。それは「中庸」と言う中国の考えに近いかもしれません。「陰陽」両極の世界と言っても太陽と月は同じ空間にあるし、男の中にも女性的なモノ、女の中に男性的なモノがあり、分けられないのが現実。だからこそ、アートの世界ではどちらを選ぶと言うのではなく、両方とも入って来るのが必然と考えます。もちろん私は男だから男性的な面が強いけれど、その中へ反対の部分を引っ張り出していかないと、表現が物足りないし、不完全になる意識が強いからです。
そんな個人的な思いに加え、ここ3年間のコロナ禍、気象変動、ウクライナ危機、地球規模で問題山積の現在、知らず知らずのうち、世の中にも「桃源郷」を求めている方々が多いと思います。こうした果てしない混迷の時代だからこそ、私の「桃源郷 Earthly Paradise」をご覧いただき、少しでも幸せに至る糸口を掴んでいただけたら幸いです。
どうぞよろしくお願い致します。




(*印写真提供 金大偉さん / 構成・撮影 関 幸貴 )



プロフィール

金大偉さん
◆金大偉(きんたいい)さん
中国遼寧省生まれ。父は満洲族の中国人、母は日本人。来日後、独自の技法と多彩なイマジネーションによって音楽、映像、美術などの世界を統合的に表現。近年はアジアをテーマに音楽や映像作品を創作するほか、映像空間インスタレーション展示、絵画展、ファッションショー及び映画の音楽制作、演劇舞台の演出、国内外にて音楽コンサートやイベントを行い、様々な要素を融合した斬新な空間や作品を創出している。

音楽CD『Waterland』('97)、『新・中国紀行』('00)、『 龍・DRAGON 』('00)。また中国の納西族をテーマにした『TOMPA東巴』('03~'07)シリーズ3枚を発売。『冨士祝祭~冨士山組曲~』('14)、『鎮魂組曲2 東アジア』('17)、『マンチュリア サマン』('18)など22枚リリース。映画監督作品は、『海霊の宮』('06)『水郷紹興』('10)『花の億土へ』('13)『ロスト・マンチュリア・サマン』('16)、アート映像『シマフクロウとサケ』('21)などある。また自身の表現世界や創作への思想などをまとめた著書『光と風のクリエ』('18)などがある。

[web]
kintaii.com

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愛読書「タオは笑っている」 雲南省麗江市の納西(ナツ)族から購入した愛用アクセサリー 金大偉さんの右手 *作品「春の迷宮」

 

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