アトリエ 訪問

☆特別企画 コロナ禍になって2度目の夏が終わろうとしています。海の町に住む画家、住谷重光さんに現在の想いを綴っていただきました。

住谷重光(すみたにしげみつ)さん

住谷重光さん

☆住谷重光さん…

コロナ渦での日常生活:以前と変わりなく午前中は出来る限り自然の中で描いています。少し昼寝をしてから午後はアトリエで描き、夜は主に読書をしています。人生残り少なくなりつつあるのに、やるべきこと、やりたいことはまだまだ山積み。毎日コツコツとやるしかありません。


コロナ禍で考えたこと:2年前の冬にコロナが発生した時、初めての経験なので何冊か関連する本を読み、人類は発生からウィルスと共生していること、1918年の「スペイン風邪」と似ていること、それは約4年続いたことなどを知りました。感染対策は、日頃からの手洗い、うがい、マスク着用など、基本的なことを行いつつ、精神的には過度な不安や恐怖に陥らないよう気をつけて行動しています。
「スペイン風邪」が世界中で猛威をふるった100年前は、ロシア革命、ダダイズム、第一次世界大戦があり、デュシャンが大ガラスを制作、マレーヴィッチが絶対抽象を描いています。画廊、美術館、公募団体もこの前後に始まっていて、近代から現代への移行期にあたり、絵画においても白樺派がセザンヌ、ゴッホを日本に紹介しています。セザンヌ、ゴッホは現代に於いても絵画の主流なので、日本人の美意識の高さ、自然への感性の豊かさを改めて痛感します。今、私たちは歴史の全体を俯瞰できる時代におり、人類発生以前からの生命とは何かを自分自身で問う良い機会です。絵画においては、4万年前のラスコーの壁画などを観ると、絵画のすべての要素が出揃っています。描いた理由は謎ですが、自己表現ではないようです。宗教以前の何らかの関係性への共有、メッセージの伝達のように感じ、それは芸術の起源に通じるようにも観えます。

コロナ禍以後のアートの役割:14世紀から15世紀には「ペスト」が流行りました。「我思う、故に我あり」で知られるデカルトは、ロゴス(理性)中心の近代哲学の祖ということです。その時から、資本主義、ルネッサンス、宗教改革、産業革命など、現代まで通じる人間中心主義の世界観が出来上がりました。現代では、その負の部分である格差社会、環境破壊、地球温暖化が言われていますが、その根底には、飽くなき人間の欲望が横たわっています。デカルトから遡って、古代ギリシャにヘラクレイトスと言う哲学者がいます。「万物は流転する」「相反するものの間に、最も美しい調和がある」という言葉で知られています。ヘラクレイトスは、ロゴス(理性)とピュシス(自然の流れ)を分離しないで一つのものとして考えていました。デカルトが置き去りにした、このピュシス(自然の流れ)を現代に捉えなおすことが大切だと感じます。
これはインドの釈迦や、日本の道元の実践した、あるがままの自然に触れながら、自我や欲望を消去していく清浄行という修行に通じるものがあります。すべては、つながって流れています。自然の循環と共生、思いやりと信頼、美と調和といったことが、これからのアートにとって重要だと思います。特に日本は縄文文化も見直されているように、自然が豊かです。私たちも、この地形風土に根差した文化を生き、次の世代に伝える事が大切だと思います。

 
2021年夏 住谷重光

 
*取材日:2021年8月13日 撮影のためマスクを外しました。



(構成・撮影 関 幸貴)

 



プロフィール

住谷重光さん
画家
1950年7月 神戸市生まれ
現在は神奈川県大磯町在住
1977年3月 東京芸術大学油画卒業 
湘の会主宰
おだわらカルチャーセンター講師
あらたま会会員
 
作品「光のフォルム」20号 新作「朝日」20号 自宅リビングから見た光景 東京都美術館イサム・ノグチ展でのスケッチ

 

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